東京地方裁判所 昭和57年(ワ)1743号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
三抗弁3(一)(受領拒絶を理由とする口頭の提供)について
1 前記認定事実によれば、原告東豊の被告に対する昭和五五年三月二五日付書面は、それまで原告らと被告との間の約定に基づき賃料全額を原告東山企業の口座に振り込んで支払うとされていたのを、右賃料の半額を原告東豊名義の口座に振り込んで支払うことを求めたものである。したがつて、右書面に記載された意思表示の内容はあくまでも、被告の原告ら両名に対する賃料の支払方法の変更とそれに基づく賃料の支払を求めるものであつて、原告東豊が賃料の受領を予め拒絶したものということはできない。また、前記認定事実によれば、原告東山企業も同年三月三一日付書面をもつて、賃料全額を従前通り同原告に支払うよう要求しているのである。したがつて、被告が同年四月一二日付書面をもつて口頭の提供をしたと主張する時点までにおいて、原告らの両名又はその一方が賃料の受領を予め拒絶したと認めることはできない。
よつて、抗弁3の(一)(受領拒絶を理由とする口頭の提供)は理由がない。
四抗弁3(二)(債権者の行為を必要とすることを理由とする口頭の提供)について
1 前記認定事実のとおり、原告らと被告との合意により賃料全額を原告東山企業の口座に振り込んで支払うことが取り決められていたところ、原告東豊が賃料の半額を同原告の口座に振り込んで支払う旨要求してきたが、原告東山企業は従前通り賃料全額を原告東山企業に支払うことを求めたこと、被告は原告東豊に対し、まず昭和五五年三月二七日付書面をもつて原告ら両者間で支払場所等支払条件を明確にすることを求め、次いで同年四月一二日付書面をもつて原告東豊に異議がなければ従前通り原告東山企業に支払いたい旨の通知をしたこと、これに対し原告東豊は同年四月二八日付書面をもつて原告東山企業に対する賃料の代理受領権を解除したので、賃料半額を原告東豊に支払うことを求めたことが認められる。
2 右の事実を前提として考えるに、原告らの被告に対する賃料債権の支払方法については、原告らと被告の合意により原告東山企業の口座に全額振り込んで支払うことになつていたところ、原告東豊が右合意に反し、賃料の半額を同原告に直接支払うことを要求したとしても、賃料支払方法・支払場所を変更するためには共同賃貸人及び賃借人との間において、変更に関する合意が必要であるから、原告東豊の右要求により直ちに当初の合意の効力が失われると解することはできない。また原告東豊の昭和五五年四月二八日付書面によれば、原告東豊は原告東山企業に対する賃料の代理受領権を解除した旨を通知してきており、これは、原告東豊が原告東山企業に対する賃料受領の委任(準委任)契約を解除したことを債務者に通知したものということができるが、右は原告ら両名間で賃料の受領権限をめぐり対立が生じたというにとどまり、原告ら及び被告の三者間で先に合意されていた事項が右の通知により直ちに効力を失うことになるものとは解せられない。このように、支払方法・支払場所の指定に関する当初の合意の効力が失われていない以上、被告は右合意に従い、賃料の支払義務を履行すべきであつて、原告東豊から被告に対し、右合意と異なる支払場所を指定してきたとしても、原告ら両名で改めて協議をしたうえ新たな指定をしなければ被告の債務の履行が不可能な場合であるということはできない(仮に、被告において賃料半額の支払につき原告東山企業と同東豊のいずれに支払うべきか判断できなかつたというのであれば、民法四九四条に従い、当該賃料を供託すべきであつたと考えられる。)。
3 したがつて、被告が昭和五五年五月六日付書面を送付した時点において、債務の履行につき債権者の行為を要するとの要件を充すとして口頭の提供で足りるということはできないから、被告の抗弁3の(二)(債権者の行為を必要とすることを理由とする口頭の提供)は理由がない。(吉野孝義)